卒業研究発表

優秀演題

トレッドミルの使用により歩容と歩行速度が改善した症例

2016年度 【理学療法士学科 夜間部】 優秀演題

背景

 臨床実習においてアテローム血栓性脳梗塞により左片麻痺を呈した患者様を担当した.本症例は中間評価時(発症から97日目)においてBrunnstrom recovery stage(以下,BRS)は上下肢共にⅤ,病棟内独歩を獲得されていた.しかし麻痺による筋出力低下,協調性の低下により跛行を呈し,運動効率が低下した歩容となっていた.職場復帰に向けて時速4~4.5kmで10~15分程度安定した歩行を獲得する必要があった.速度負荷を与えながら強制的に下肢の交互運動を行うことができ,エビデンスレベルが高いことから,トレッドミル歩行練習¹⁾を取り入れた.その結果,歩容,歩行速度に改善が見られたため,以下に報告する.

症例紹介

 症例は60代男性で,診断名はアテローム血栓性脳梗塞,症状は左不全片麻痺で利き手は右手である.本人のHopeは「仕事に復帰したい」であった.受傷前ADLは全て自立で,職業は病院の清掃員として週5日勤務されていた.併存疾患、既往歴は特にない.

評価と治療

 歩行観察は,独歩で左MSt~TStにかけて左膝関節は過伸展を呈し,左TStに足部の蹴り出しが減少する.それにより左PSw~ISwにかけて左膝関節屈曲角度が減少する.また,これにより左立脚期,右の歩幅の短縮と左遊脚期のクリアランスが低下する.左下肢のクリアランスを確保するため,右立脚期に体幹右側屈と伸び上がりが観察された.BRSは上下肢共にスピードテストの判定が不十分でstageⅤ,10m歩行は遂行時間10.04秒,ケーデンス113/分,スピード0.99m/秒,ストライド長1.05mであった.徒手筋力テスト(以下,MMT)は左大殿筋3,左大腿四頭筋4,左腓腹筋2+(中足骨まで3回挙上可能)であった.治療として,中間評価以降はトレッドミル歩行を15~20分行った.方法は①ウォーミングアップを時速3㎞で1~2分実施,②時速4.8~5㎞と目標速度よりも速く設定し5~8分実施,③目標速度よりもやや速い時速4.2~4.5㎞に設定し8~10分実施と順に行った.また,前方手すりの把持は許可するが体幹が過前傾にならないこと,なるべく直立位に保つこと,大股で歩行し,左下肢へしっかり荷重することを意識して行った.

結果

 歩行はMSt~TSt時に見られていた左膝関節の過伸展はTSt時に時折見られる程度に減少し,左足部の蹴り出しが増加した.それにより左PSw~ISwにかけて左膝関節屈曲角度が増大し,クリアランスの低下が改善された.その結果,右立脚期の体幹右側屈,伸び上がりはほぼ見られなくなった.10m歩行は遂行時間9.03秒,スピード1.10m/秒,ストライド長1.17mと改善が見られた.MMTの数値の変化は見られなかったが,特に左腓腹筋において片脚で中足骨まで挙上できる回数が14回可能となり,筋出力向上が認められた.

考察

 先行研究²⁾において,トレッドミル歩行練習では床面の不安定さに対して,麻痺側立脚安定のため下腿三頭筋の筋活動の増加が認められている.また,一定速度で対称的なステップを強制されることで歩行の学習が促され,平地歩行において歩幅を保ち,歩行率が改善されると報告されている.本症例も平地歩行において,患者自らのタイミングにより遊脚相へ移行するため立脚期における下肢を支持するための筋活動が過剰に生じていたと考えられる.しかし,トレッドミル歩行により速度負荷を与えることで,一側下肢の立脚時間が制限されるため,一定時間内に遊脚相へ移行する必要が生じる.それにより,MStでの支持側にかかる床反力を軽減せることが可能となり,より効率的な筋活動による歩行を学習でき,歩容・歩行速度の改善が認められたのではないかと考える.

文献

1)原寛美,吉尾雅春編集:脳卒中理学療法の理論と技術.メジカルビュー社,東京,2015,443.
2)山田卓也,山田深・他:脳卒中片麻痺患者における平地歩行とトレッドミル歩行の比較.第45回日本理学療法学術大会 抄録集.37,Suppl2.

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