卒業研究発表

優秀演題

医療・福祉介護現場におけるトランスファーボードの使用現状

― 腰痛を減らすために作業療法士ができること ―

2016年度 【作業療法士学科 昼間部】 優秀演題

背景

 先行研究では,介護老人保健施設職員の約80%に腰痛が出現している.さらに平成25年6月に改定された,「職場における腰痛予防指針」では『腰部に著しく負担がかかる移乗介助等では,リフト等の福祉機器を積極的に使用することとし,原則として人力による人の抱上げは行わせないこと』が追加された.そこで,本研究では,「職場における腰痛予防指針」改定後の,指針の認知度,福祉用具の認知度・改定後の普及率・腰痛の有無・要因・対策・作業療法士の福祉用具の使用経験・指導経験の調査を実施し,先行研究と改定後の差を検討する.

対象および方法

 調査対象は,近畿圏内の老人保健施設3施設に勤務する作業療法士15名,看護師10名,介護士12名,ヘルパー15名,全職員52名であった.調査方法は,アンケート,又,作業療法士には追加により,別紙の無記名式アンケート用紙を作成し,アンケート用紙と共に,調査の目的及び内容,参加と辞退,プライバシーの保護等について明記した「調査協力のお願い」を配布し実施した.回答後の調査用紙は,施設ごとに一括して回収した.回答書の提出により,本調査に同意したものとみなした全職員が現在担当している,リハビリ業務・看護業務・介護業務に分け,「職場における腰痛予防指針」改定後に関する調査項目を単純集計を用いて分析した.

結果

 本研究の結果から,腰痛経験があると答えた人は77%,腰痛の原因として移乗介助によるものとの回答が52%と大半を占めた.また,職場における腰痛予防対策指針改訂の認知度を調べたところ改訂を知っていたと答えたのは17%,知らなかったが12%,腰痛予防対策指針自体を知らないとの回答が71%と1番多い結果となった.トランスファーボードを使用していない理由として,時間がかかる・施設にない等が挙がった.施設にない・使い方が分からないと回答した人は「指導者と福祉用具があれば使用する」と6割以上が回答した.

考察

 腰痛に対する意識の低さが示唆されるため,腰痛予防対策指針の認知度が向上するような提示方法を検討する必要があると考える.又,トランスファーボードの使用率が低いため,腰痛が誘発される1つの原因として挙げられる.トランスファーボードの導入と指導者がいれば普及率は向上すると考える.

まとめ

 先行研究と比較するとトランスファーボードの使用率に大きな変化は見られなかったため,腰痛の有無にも変化は見られなかった.そこで,解剖・生理・運動学の知識を持ち,加えて環境設定という専門性のある作業療法士だからこそトランスファーボードのメリット・デメリットを他職に伝えていくことが必要だと考えた.そうすることで他職の腰痛に対する意識改革にも繋がり腰痛を軽減することが出来るのではないかと考えた.サンプル数が少なかったため,先行研究との比較に誤差が生じると考える.また今後の課題として施設数,対象者人数を増やし信憑性の高い研究内容とすることが必要と考える.

文献

1)朝倉 弘美,備酒 伸彦,他:介護老人保健施設職員の移乗関連用具に対する認識及び腰痛との関連.理学療法科学28(3), 2013 ,329-334.

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