卒業研究発表

優秀演題

デモンストレーションが作業活動のフロー状態に及ぼす影響

2016年度 【作業療法士学科 夜間部】 優秀演題

背景

 作業療法において対象者に作業活動を説明する際,デモンストレーション(以下デモ)や説明書により教示することが多い.
デモと説明書2つの教示方法では,どのような要素の働きに違いがあるのだろうか.その要素として“作業への没入感=フロー状態”に着目し,これに違いがあるのではないかと考えた.
 そこで,したことのない作業に対し,両群でどのようなフロー状態の違いがみられるのかを明らかにする.これにより,対象者へ作業活動を提供する際の適切なデモを知ることができるのではないかと考えた.

対象および方法

 対象者は,大阪医療福祉専門学校に在籍する学生で“あんでるせん手芸“をしたことが無い人32名(20~30歳代の男性12名・女性20名).方法は,無作為抽出によりデモ群,説明書群の2群に分け,実験を実施した(作業時間約40分).その際,倫理的配慮として,口頭と文書での説明を行い同意の確認を行った.
各質問紙の実施は,鎌原ら1)によるLOC尺度を作業前,フロー得点と挑戦と能力,工程毎に感じた感覚のアンケートを作業後,興味についてのアンケートを作業前後に実施した.尚,フロー得点は石井ら2)によるフロー質問紙を用い,検定はマンホイットニーU検定を採用した.教示については,説明書群は出版されているあんでるせん手芸の教材を提示した.デモ群にはデモ者が並行して作業しながら,説明書と同じ工程毎に口頭で教示した.

結果

 実験の結果,フロー概念の下位項目である感情面,満足感,活性度,集中度,とらわれのなさ,社交性において,デモ群に有意差が見られた.また作業の難易度を指す挑戦の項目では,説明書群(5.81±1.29)がデモ群(4.19±1.33)より平均点が有意に高かった(p<0.01).自身の技術を指す能力では,デモ群(2.75±1.12)が説明書群(1.75±1.20)より平均点が有意に高かった(p<0.05).
 フロー合計点では,デモ群(113.19±17.00)が説明書群(83.63±21.08)より平均点が有意に高かった(p<0.01).また,作業前後の興味でも,デモ群は作業後に興味が増す結果となった.

考察

 両群を比較すると,デモ群は挑戦感と能力の差が小さいことでやや難しさを感じ,集中を要している状態といえる. このことから,デモにより能力を引き上げ,また挑戦感を下げたことで,フロー状態に必要とされる,挑戦感と能力のつり合いがとれたのではないかと考える.
 具体的には,デモでの関わりにより,デモ者が対象者の表出や動作をとらえ,次の工程への教示のタイミングを考慮したことが,対象者の理解の促進につながり,それがフロー得点にも有意に働いたと考えられる.つまり,課題の難易度に対して,対象者個々の能力を調整し発揮するための援助が,デモの特性のひとつであると言える.
 また,デモは作業後に興味が増す結果となった.これは作業後に自分の作品と,デモ者の作品を見ることで,更なる完成のイメージを持ち,興味が増したと考えられる.
 以上のことから,フロー状態を得るために考慮すべき点として,作業時の対象者の観察,どの程度の難易度に感じているかを質問などから拾うこと,そして,状況に合わせて程よい挑戦感を持てるように,デモを行うことが挙げられる.これらを留意しておくことは,フロー状態を導き出すためには必要だと考える.

まとめ

 私たちが将来,作業療法を行うにあたり,デモを単なる教示の手段としてではなく,対象者に対し,フロー状態が得られる作業活動への参加を促すための援助方法として捉え,作業療法の効果とQOL向上につながるよう,活用していくことが大切だと考える.

文献

1)鎌原雅彦,樋口一辰,清水直治:Locus of Control 尺度の作成と,信頼性,妥当性の検討.教育心理学研究.第30巻第4号,38-43,1982.
2)石井良和,石井奈智子,石川隆志:基礎作業学実習における作業活動の主観的特性~フロー概念,統制の所在,興味の変化からみた作業活動~.秋田大学医学部保健学科紀要.第14巻第2号,54-61,2006.

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