卒業研究発表

視野狭窄者に対する調理時の工夫

― 「切る」動作に着目して ―

2016年度 【視能訓練士学科 3年制】 口述演題

背景

1年生次に受講した視覚障がい者ガイドヘルパー講座の中で実際に視覚障がい者のお話を伺ったところ,生活で不便なことの1つに料理があるということであった.そこで視覚障がい者の料理に関する文献を探したところ,中島らはロービジョン者は野菜の摂取量が少ないと報告していた.これは調理の負担が大きいためで,弁当や既製品の使用頻度が多く,食事の質の低下に結び付いているとのことであった.調理の中でも最も負担が大きいとされている,切るという動作に対し,どのような工夫が有効か研究を行った.

対象および方法

視能訓練士学科3年制3年生16名を対象とし,料理得意組(週2~3回以上料理をする人)8名と料理不得意組8名に分けた.完全矯正下で視野10°の狭窄マスクを装用し横6cm直径6cmの大根を見本どおりの厚さ2cmの半月型に切るという作業を以下の条件で行いかかった時間を測定し,一元配置分析を行った.1;白まな板2;黒まな板(コントラストを改善し視認性をよくするため)3;グッズ(手を切らないよう透明のアクリル板を指の前に装用した)+白まな板4;グッズ+黒まな板. またそれぞれの状況下で,恐怖を感じたかの質問に対し,①全く当てはまらない②あまり当てはまらない③やや当てはまる④とても当てはまる の4段階で,評価して頂いた.

結果

視野狭窄下で切るのにかかった平均時間は,料理得意組は白まな板18.59秒,黒まな板13.80秒,グッズ+白まな板23.62秒,グッズ+黒まな板20.47秒であった.料理不得意組は白まな板17.39秒,黒まな板15.25秒,グッズ+白まな板24.82秒,グッズ+黒まな板20.12秒であった.恐怖を感じたかのアンケート結果は当てはまらない,あまり当てはまらないと回答した人数は,料理得意組では白まな板2名,黒まな板6名,グッズ+白まな板0名,グッズ+黒まな板2名であった.料理不得意組では白まな板6名,黒まな板7名,グッズ+白まな板1名,グッズ+黒まな板2名であった.料理得意組も料理不得意組も最も恐怖を感じなかったものは,黒まな板となった.

考察

黒まな板は切る時間では優位差こそ出なかったが,最も早い結果となった.またコントラストを上げて見やすくすることで視認性が良くなり,結果恐怖心も最も感じなかった.一方手を切らない工夫では恐怖心が増す結果となり,ただ手を切らない工夫だけでは逆効果となった.従って,本人にとって扱いやすい操作性も重要であり,必ずその点をシュミレーションする必要があると言える.

まとめ

視覚障がい者は料理全般への負担が大きいことから,「切る」ことに対して負担を取り除けるような工夫の効果について検証したが,結果は恐怖心,視認性ともにコントラストを向上した方が多くの人に対し負担が減った.また操作性を損なうと逆効果となり得るため,実際に使用していただくことが大切である.また,今回は白い大根に対し黒まな板を使用したが,食材の色によって,まな板を変える必要がある.

文献

1) 中島節子,奥野ひろみ.他:視覚障害者の肥満とそれに関連する生活習慣の検討.信州公衆衛生雑誌.7(2),2013,75-81.

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