卒業研究発表

電子カルテについての歴史および現状と課題

2016年度 【診療情報管理士学科】 口述演題

背景

電子カルテとは,従来の紙に書き込むカルテの代わりにパーソナルコンピューター上に医療情報を登録していくシステムを指し,医療分野のIT化のうえで欠かせないものである.カルテがデータ化されることによる紙資源が節約できることはもちろん,医師や看護師など医療に携わる人々と患者自身が情報を共有できるほか,診療後に医療費がすぐに計算されるため会計処理もスピーディになるなど多くの利点がみられる.一方でデータ漏洩の危険なども少なからず散見される.
本研究では電子カルテについて,過去の取り組み,電子カルテのメリット,デメリット,今後の普及予測を調査・整理することを目的とした.

本論

1.電子カルテにおける過去の取り組み

諸外国に目を向けると,米国オハイオ州のアクロン小児病院で1961年に,コンピュータをベースとするカルテシステムを実験的に導入した.当時の米国の大型病院では,気送管や荷物用小型エレベーターなどを利用して,院内で紙のカルテを運搬していた.アクロン小児病院はこのような気送管や書類用エレベーターを撤去し,代わりに入出力端末15基を設置した.看護士や医療助手が患者から伝えられた情報をこれらの端末に入力するようにした.
1976年に初の電子カルテシステム「PROMIS」が登場し,患者の主訴,客観的な情報,評価,計画を記入する方法である「SOAP note」が定着した.
一方,わが国では電子カルテの始まりは1970年代のレセプトコンピューターの登場といわれて,これにより負荷が軽減された.その後,医療用画像管理システムが現れ,CTやMRIなどのデジタル画像データを管理し,ネットワーク上でやり取りできるようになった.電子カルテが登場したのは1990年代であり,1999年に厚生省がカルテの電子媒体による保存を認める通達を発表した.

2.電子カルテを使うメリットとデメリット

電子カルテを使うメリットには,データの共有と効率化,省スペース化,受付・会計の待ち時間軽減,コミュニケーションの向上が挙げられる.
過去の患者のカルテを検索するのが紙カルテより速く,また紙カルテを収容するスペースも不要である.受付から診察・処置・会計の一連の流れがスピーディになるため,患者の待ち時間が軽減される.
一方でデメリットには,故障によるリスクがあり,停電したときに使えないことが挙げられる.すなわち,システムの故障によりデータが壊れてしまう恐れがあるためにバックアップシステムを用意する必要があり,停電すれば電子カルテが使えなくなることがある.それに加え,導入コストとメンテナンスには多額の費用が必要になる.そのため,導入に踏み切れない医療機関もある.

3.電子カルテにおける今後の予測

電子カルテの市場規模は,2013年には1,267億円だったが,2018年には1,940億円とされ,継続的に増加していることがわかる.その要因として,「地域医療連携」という考え方で患者の情報共有のインフラとして電子カルテの普及が必須であることが挙げられる.『「日本再興戦略」改訂 2015』で「400床以上の病院への電子カルテ普及率を90%以上に」の目標が示されたことで,病院向けの電子カルテ市場は拡大が予想される.実際2015年の2,028億円から2018年には2,438億円へとゆるやかに伸びを示すと予想される.一方,今後普及率が42%程度の中小病院(ベッド数100~400床未満)で納入数の大きな伸びが期待されると考えられる.

まとめ

本研究では電子カルテという診療情報管理と関係の深いテーマの歴史および現状と課題について考察した.その結果,未だに現状の電子カルテの普及率は低いものの,国の指針と相まって今後の普及は明るい見通しで,緩やかであるが順調に進んでいる.
今後は単に病院・診療所単位の電子化にとどまらず,地域医療全体の電子化を目指すこととなるだろう.

文献

1)松田晋哉,伏見清秀:診療情報による医療評価: DPCデータから見る医療の質,2012
2)シードプランニング:電子カルテの市場動向調査: 電子カルテ/PACS市場規模予測とシェア動向,2012

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