卒業研究発表

左脛骨内顆骨壊死に伴い左人工膝関節全置換術を施行した症例

― 術後の腫脹が膝関節伸展筋出力へ及ぼす影響 ―

2016年度 【理学療法士学科 昼間部】 口述演題

はじめに

今回,左脛骨内顆骨壊死に対し左人工膝関節全置換術(以下TKA)を施行された症例を担当した.術後の腫脹軽減に治療アプローチし,大腿周径の変化と,それに伴う膝関節伸展筋出力への影響について考察を行ったのでここに報告する.

症例紹介

70代前半の女性.約30年前から両膝の疼痛出現.その後は保存的治療を行ってきたが,1年前に自転車から降りた際に左膝関節の疼痛が増悪し,左脛骨内顆骨壊死と診断され,左TKAを施行された.

評価

術前評価の徒手筋力検査(以下MMT)では,左膝関節伸展は4であった.左大腿周径では,膝蓋骨直上は36.0cm,膝蓋骨上縁+5cmは40.5cm,上縁+10cmは45.5cm,上縁+15cmは未実施(着用衣服の関係で不可)であった.術後3日目に初期評価を行った.MMTでは,左膝関節伸展は3であった.左大腿周径では,膝蓋骨直上は40.5cm,膝蓋骨上縁+5cmは43.0cm,上縁+10cmは49.0cm,上縁+15cmは51.5cmであった.

治療プログラム

術後1日目から循環改善を目的に左大腿全体に対しリラクセーションを行い,筋ポンプ作用を促すために弾性ストッキング着用下にて左下肢全体の関節可動域運動を行った.また,筋力強化のためにパテラセッティングとキッキング,抵抗運動を行った.

結果

術後18日目に最終評価を行った.MMTでは,左膝関節伸展は4であった.左大腿周径では,膝蓋骨直上は37.5cm,膝蓋骨上縁+5cmは39.5cm,上縁+10cmは42.5cm,上縁+15cmは46.5cmであった.

考察

室は,トレーニング初期の筋力増強は神経的因子によってもたらされ,筋量はほとんど変化しないが筋力は増加し,トレーニングの4~6週程度経過すると神経要素に加えて筋肥大を伴う筋力増加がみられる1)と述べており,今回の約2週間という治療期間内での筋肥大は困難であったと考える.また,阪本らは,関節神経生理学的な観点から関節水腫や腫脹による大腿四頭筋の筋活動抑制が指摘されており,特に術後早期の急性水腫では大きく影響する2)と述べている.本症例においても術後早期における腫脹がみられていた.そのため,循環改善を目的とした治療を行い腫脹が軽減されたことによって術前と比較すると大腿周径は低下したが,左膝関節伸展筋の筋出力は改善し,MMTでは数値の向上がみられた.よって,TKA術後においては,まず術側下肢の腫脹軽減を優先し,腫脹の緩和に伴い筋力強化を図ることで,より効率的な治療が可能になると考える.

おわりに

今回は術後の腫脹が筋出力に及ぼす影響ついて着目したが,炎症反応との相関や膝関節の可動域ごとのピークトルクを考慮した上で,筋電図などを用いてより詳細を追究していくことが今後の課題である.

文献

1)室 増男:筋力増強update-筋力増強の代表的方法と 効果-,PTジャーナル.44(4),2010,4,269-276.
2)坂本 良太,武政 誠一・他:変形性膝関節症に対する 人工膝関節全置換術後の膝伸展不全について,神戸大 学大学院保健学研究科紀要.24,2008,29-39.

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