卒業研究発表

TKA施行患者の機能低下と歩行速度の関係性

2016年度 【理学療法士学科 昼間部】 口述演題

背景

今回,右TKA再置換術を施行された患者を担当した.本患者の特徴として通常3ヶ月で膝関節伸展筋が術前と同程度に回復すると言われているが,術後8週の段階で右膝関節伸展筋筋力低下が著明にみられていた.それにも関わらず歩行速度が改善されていたため,膝関節伸展筋を始めとする術後の機能低下と歩行速度の関係性について研究し,結果を得たので以下に報告する.また歩行速度について足関節底屈筋との関係性が高いと言われているが,本研究では初期から最終にかけて足関節の筋力及び可動域などの変化がなかったため膝関節に着目した.

症例紹介

症例は70代の男性で,診断名は右TKA後のインプラントの緩み,本人hopeは「早く退院したい」であった.術前ADLは独歩1㎞自立,階段昇降は一足一段で可能であった.

評価と治療

関節可動域テスト(以下ROM-T)は右膝関節伸展可動域-10°,徒手筋力テスト(以下MMT)は右膝関節伸展筋2であり,右膝関節伸展角度は-60°であった.10m歩行は15.54秒で,荷重検査では右が18kg,左が42kgで,片脚立位は右が1秒,左が11秒であった.またTsw時の右膝関節伸展角度は-30°であった(kinoveaにて測定).治療として炎症・腫脹に対してアイシングや弾性包帯などを行い,循環の改善を目的として右膝関節伸展自動運動を実施した.右ハムストリングスに対しリラクセーションやストレッチなどにより防御性収縮・短縮の改善を行った.右膝関節伸展筋に対しては,自動介助運動や反復収縮,歩行訓練や階段昇降訓練により筋萎縮に対する筋力増強訓練を行った.

結果

ROM—Tは右膝関節伸展-5°で,MMTは右膝関節伸展筋が2,また自動運動での右膝関節伸展角度は-20°より軽度の改善が認められた.10m歩行は8.65秒と改善されており,荷重検査は右が25kg,左が35kgと左右差は減少し,片脚立位は右が7.58秒,左が20秒と改善していた.Tsw時の右膝関節伸展角度は-5°で正常歩行と同程度の角度が得られた.

考察

先行研究では歩行能力を規定する要因として膝関節伸展筋力が重要であると報告されており¹⁾,膝関節伸展筋力が向上すると共に歩行速度も向上すると考えた.しかし,結果より本研究の目的であった膝関節伸展筋と歩行速度との関係性は低いと示唆された.膝関節伸展筋よりも歩行速度との関係性が高いと考えられるものとして,治療により大幅に改善した膝関節伸展可動域,荷重量,片脚立位が考えられる.また,これらの要因について,先行研究では膝OA患者において歩行能力を示す歩行速度,重複歩距離,歩行率が片脚立位やTUGと優位な相関が認められ ²⁾,さらに荷重率と機能的なバランス能力には強い相関があることが明らかにされている³⁾.本症例と類似することから,これらの要因と歩行速度との関係性が高いと考えられる.膝関節伸展筋と歩行速度の関係性が低い要因として,術側立脚期LRで,本症例は膝関節伸展筋MMT2であったが,歩行速度が向上しており,MMT3に満たない筋力で歩行に必要な膝周囲の機能が可能であることが分かった.また,術側遊脚期Tsw時の右膝関節伸展角度が治療後には-5°と正常歩行と同程度の角度が得られており,この要因として慣性の法則が考えられる.慣性の法則により,膝関節伸展筋が不足していても歩行上では問題ないと考え,これらの各機能低下の関係性から歩行速度が改善されたと考える.以後,TKA施行患者を担当し,歩行速度の獲得を重視した場合には,本研究より膝関節伸展筋だけに着目するのではなく,他の要因にも着目するべきだと考える.

文献

1)山本哲生・他:両変形性膝関節症患者の歩行速度に膝伸展筋力に及ぼす影響.第48回日本理学療法学術大会 抄録集.40,Suppl2.
2)神成透・他:変形性膝関節症における歩行に関連するバランス能力の検討.第48回日本理学療法学術大会 抄録集.40 Suppl2.
3)南條恵悟・他:大腿骨頚部骨折患者における患肢荷重率と歩行能力・バランス能力の関係.第47回日本理学療法学術大会 抄録集.39,Suppl2.

記事一覧
大阪医療福祉専門学校 TOP

CATEGORY MENUカテゴリーメニュー

もっと詳しく知りたい方は