卒業研究発表

大殿筋の活動量が立ち上がり動作に変化を及ぼした症例

― 工夫した立ち上がり動作訓練が大殿筋に及ぼす影響 ―

2016年度 【理学療法士学科 昼間部】 口述演題

背景

今回,両変形性膝関節症により20年前から疼痛を訴え入院し,左TKAを施行された症例を担当した.本症例の特徴として初期評価時に両大殿筋はMMT2,左膝関節の炎症による疼痛,右膝関節裂隙の狭小化による痛みにより立ち上がり動作の際,過度な体幹前傾を認めた.仮説としてこの両大殿筋の筋力低下と膝関節の疼痛が体幹前傾角度を増強させているのではないかと考えた.一般的に立ち上がり動作に関して,大腿四頭筋と大殿筋の協調した作用が必要であると述べられている.大殿筋への治療を行った結果,立ち上がり動作に変化が起き体幹前傾角度が減少したため,以下に報告する.

症例紹介

症例は70代後半の男性で,診断名は両変形性膝関節症であり,術式は左TKAのPS型である.家族hopeは「今までのように毎日買い物に行って欲しい」である.趣味は畑仕事やボランティア活動であり,内容は高齢者への食事の提供をしている.術前ADLは,身辺動作は自立で,歩行はT-caneを使用して自立していた.自宅は持ち家で,家族に整形外科疾患の方がおり,住宅改修済みである.既往歴はL3/4/5に脊柱管狭窄症がある.

評価と治療

立ち上がり動作では,重心前方移動期~殿部離床にかけて体幹が過度に前方傾斜し,右に比べ左足部が前方に位置していた.30秒間で何回立ち上がり動作ができるか転倒危険性を確認する評価CS-30で,初期は左膝関節の疼痛が著しく,前方への転倒恐怖感があり評価は難渋した.またTUGは,起立・着座の際に時間を要した.ROM-Tは左膝関節屈曲80°,MMTは左大腿四頭筋2,両大殿筋2,疼痛評価は,左膝関節に運動時NRSで5~6であった.治療として,左膝関節の炎症が減少して疼痛が緩和した際に,過度な体幹前傾をしないようボールを把持しながら立ち上がり動作を繰り返し行った.これは大殿筋や大腿広筋群へより負荷をかけ,筋線維の肥大を目的とした前方空間を制限した立ち上がり動作である.後方重心を防ぐために踵への補高,接触介助にて前上方への誘導を行った.

結果

MMTにおいて左大腿四頭筋3,両大殿筋4と向上が見られた.疼痛評価では,左膝関節NRSは運動時で2と改善を示した.そのためTUGの際,起立・着座に要していた時間が短縮した.また,立ち上がり動作においても体幹前傾角度が減少し,CS-30で13回と年齢と比較した平均値に達した.

考察

本症例は立ち上がり動作において左膝関節運動時痛,大殿筋の筋力低下による過度な体幹の前方傾斜が認められた.そのため,身体重心が過度に前方へ移動し,体幹の前方傾斜角度を増加させることによって離臀直後の床反力ベクトルが膝関節に近づくため,膝伸展モーメントが減少させていると考えられる.星ら1)の研究によると,前方空間を制限した場合,大殿筋の筋活動のピークは前方フリーでの立ち上がり訓練と比較して早期となる離臀直後に認められると報告されている.また渡辺ら2)によると,体幹前傾角度が増加するにつれ大腿広筋群の筋張力は減少すると報告されている.よって前方空間を制限した状態での立ち上がり訓練では大殿筋,大腿広筋群の活動が有意であると考えられる.このように早期に筋張力を発揮させることにより運動単位がより多く動員され筋線維の増大また筋出力が増大したことが考えられた.

文献

1)星文彦,山中雅智・他:椅子からの立ち上がり動作に関する運動分析.理学療法.19,1992,43-48.
2)渡辺聡一郎,岡崎 稜・他:体幹前傾角度を変化させた椅子からの立ち上がりにおける下肢の筋張力シミュレーション解析.第48回日本理学療法学術大会 抄録集.40,Suppl. No2.

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