卒業研究発表

パーキンソン病を患う超高齢95歳の症例

― 記憶障害と認知リハビリテーション ―

2016年度 【理学療法士学科 昼間部】 口述演題

はじめに

進行性疾患であるパーキンソン病(Parkinson's disease:PD) の増悪によって(Activities of Daily Living:ADL)に著しい低下が見られた95歳の男性に対して,ADLの維持,向上を目的に理学療法を行った結果,介入直後では動作の改善が認められたが.最終評価において改善した動作は定着せず,即時的な改善のみに留まった原因及び,アプローチについて考察したので以下に報告する.

症例紹介

2001年にPDと診断され薬物療法を開始.2015年5月末よりPD症状の増悪と共にADLの著しい低下が見られたため,ADLの向上及び薬物調整のため当院入院.PD症状増悪前のADLは全自立レベルであった.

評価と治療

動作は全体を通して緩慢であり,介助を要した.
認知機能評価は長谷川式簡易知能評価スケールを用いて行い,30点満点中14点となり見当識,記憶の項目で減点が見られた.PD症状の評価はHoehn&Yahr stageにてⅡ~Ⅴと大きな変動が見られた.
起立動作の第一相では骨盤の前傾不全により重心の前方変異が不足し,第二相では下腿前傾不足,前足部の浮き上がりが見られ離殿困難となり,第三相において前方支持物を強く引き付けて起立動作完了となる.
治療アプローチとして,PD症状,起立動作の改善を目的に,座位,臥位で行えるパーキンソン体操,前方支持物なしでの起立動作訓練を行った.

結果

治療介入直後で動作の緩慢性,PD症状の軽減が見られた.起立動作では,下腿の前傾不足,前足部の浮き上がりが改善されたため,重心の前方変異不足が改善され,前方支持物なしでの起立動作が可能となった.
しかし1ヶ月継続して治療を行ったが,最終評価ではPD症状,起立動作での改善は認められなかった.

考察

PDには運動症状以外に非運動症状として遂行機能,記憶機能,視空間機能などの認知機能障害が存在する.本症例においても前述の問題点に対して治療介入することによって動作に改善が得られた.しかし動作の改善の定着は得ることが出来なかった.PDでは作動記憶,長期記憶,手続き記憶が障害されると言われる.本症例では特に手続き記憶が障害され,動作学習能力が低下し動作の定着が得られなかったと推測される.立花ら1)は手続き記憶の障害を起す機序として記憶処理のストラテジーの異常,手続き学習の選択的障害あるいは問題解決的アプローチにおける戦略手続きの障害などを挙げている.この手続き学習には新線条体の尾状核が重要な役割を果たしている.三村ら2)によると,記憶障害患者のリハビリテーションで重要なのは,誤りを生じさせないような学習条件であり,はじめから正答を教示する学習条件が効果的であると報告されている.しかしこの様な誤りなし学習の研究の多くは,人名の習得などが多く,動作学習での効果を検証したものは少ない.尾関ら3)の記憶障害の認められる脳卒中片麻痺患者に対する,誤りなし学習を用いた車椅子移乗動作,装具着脱動作の研究結果では,車椅子移乗動作では誤りなし学習の効果が認められたが,装具着脱動作では認められず,動作学習においての誤りなし学習の有効性に一貫性は認められない結果であった.これら文献からPDの動作学習におけるアプローチは,まだ未確立であることが示唆された.

まとめ

今回の症例を通して,PD患者の理学療法において運動症状のみならず非運動症状である記憶障害へのアプローチの重要性を感じた.そのためには,記憶障害の機序を明確にし,それに対するアプローチの確立が必要と考える.

文献

1)立花久大:パーキンソン病の認知機能障害.精神経誌.115(11),2013,1141-1143.
2)三村将・小松伸一:記憶障害のリハビリテーションの在り方.高次脳機能研究.23(3),2003,181-190. 
3)尾関誠・他:脳卒中片麻痺患者に対する車椅子動作獲得への認知リハビリテーションの効果.認知リハビリテーション.14(1),2009,74-78.

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