卒業研究発表

感覚入力が姿勢制御に与える影響について

― 脊髄小脳路と網様体脊髄路に着目して ―

2016年度 【理学療法士学科 夜間部】 口述演題

はじめに

今回,第5・第6頚髄(以下,C5・C6)の椎体破裂をきたし,頸椎椎弓形成術を施行した患者様を担当した.C6残存の頸髄損傷であり,座位保持は困難であった.そこで脊髄小脳路と網様体脊髄路に着目し,座位保持獲得に向け理学療法を行ったところ改善が見られたため,以下に報告する.

症例紹介

50代男性.診断名は頚髄症.X日に手指にしびれが生じ,徐々に伝い歩きが困難となった.第5・第6椎体破裂が生じ,C5/6間に圧迫が著明であったため,X+20日に頸椎椎弓形成術を施行された.

評価と治療

初期評価時,座位保持は後方から重度介助であり,左脊柱起立筋,両側内腹斜筋の筋緊張低下が著しく見られた.体幹の立ち直り反応は左右陰性,徒手筋力検査(以下MMT)は,体幹の屈曲は3であった.下肢筋力は右MMT3以上,左MMT2以下であり,左下肢に顕著に筋力低下がみられた.表在感覚は右側下肢が著明に低下し,深部感覚は左下肢が鈍麻であった.このことから,左側優位の脊髄不全損傷を考えた.治療としては,感覚入力の促通を目的に足つぼマットを用いて裸足で立位訓練を行った.また,内腹斜筋の収縮促通を目的に四つ這い訓練を行った.

結果

両側内腹斜筋の筋緊張は改善し,座位保持が監視で可能となった.座位姿勢は骨盤後傾,胸腰椎屈曲であったものが,骨盤前傾し腰椎前弯位で保持が可能となった.さらに右体幹の立ち直り反応が陽性となった. .

考察

本症例は理学療法評価にて,左側優位の脊髄損傷と考え,右側から同側を上行する脊髄小脳路の入力を重点的に行った.山口は,脊髄小脳路と網様体は密に神経結合している1)と報告している.よって脊髄小脳路の感覚入力から網様体脊髄路の賦活を狙った.また高草木は,網様体脊髄路は体幹や四肢近位筋の協調的な運動や姿勢を調節するため筋緊張の調節を行う2)と報告している.さらに,網様体脊髄路は両側性支配である3)ため,体幹両側にアプローチを行った.よって座位姿勢が改善した要因は,脊髄小脳路の入力が網様体脊髄路を賦活させ,内腹斜筋の収縮が可能となることにより腹圧が高まり,座位姿勢の改善,立ち直り反応の出現につながったと考える.

まとめ

今回,頚髄症患者に対して座位保持,立ち直り反応へのアプローチを行った.理学療法評価にて障害部位を鑑別し,残存している伝導路に着目して体幹機能にアプローチを行ったことで座位保持,立ち直り反応に改善が見られた.姿勢制御における感覚入力の重要性が示唆された.

文献

1)山口峻司:運動制御の神経回路と試行錯誤学習.山形大学紀要(工学).32,2010,13.
2)高草木薫:大脳基底核による運動の制御.臨床神経学.49(6),2009,325-334.
3)高草木薫:運動麻痺と皮質網様体投射.脊椎脊髄ジャーナル.27(2),2014,4.

記事一覧
大阪医療福祉専門学校 TOP

CATEGORY MENUカテゴリーメニュー

もっと詳しく知りたい方は