卒業研究発表

Trendelenburg様歩行に対し側方リーチ動作で評価から考察を行った症例

― 歩行動作から運動構成要素を減らして ―

2016年度 【理学療法士学科 夜間部】 口述演題

背景

今回左変形性股関節症により人工股関節全置換術(以下THA)を施行し,立脚中期にTrendelenburg様歩行を呈した症例を担当する機会を得た. Trendelenburg様歩行とは歩行の片脚支持期に骨盤が傾く現象を言い,代表的に中殿筋の筋力低下が問題とされるが,その他にも足関節の内反・外反可動域制限,股関節の内転拘縮や体幹の筋力低下など様々な問題が原因として挙げられる.これらの機能障害に対し,歩行観察からの動作分析だけでは足部・足関節・下腿・膝関節・大腿・股関節・骨盤・体幹など,これらの動きを総括した上での特定は難しい.歩行,片脚立位,立位,膝立ち,端座位と動作に関係する重心,支持基底面,関節など運動の構成要素を減らしていくことによって,今回より単純な動作から問題点を見つける評価を行った.

評価

歩行時,患側である左立脚中期にてTrendelenburg様歩行を呈していたことから片脚立位で左下肢に荷重ができるかを評価した.左片脚立位が困難であったため,両脚支持で左下肢に荷重できる能力を評価するために立位姿勢での側方リーチを行った.
立位,膝立ち位,座位での側方リーチを評価したが,結果全ての肢位にて右側方リーチは可能であるが左側方リーチは困難であった.このことから足部・膝の影響を取り除いても左側方リーチは困難であり,左側に荷重困難な要因は股関節から上部にあると考え座位での側方リーチを考察した.
座位側方リーチに必要な能力として非リーチ側の体幹側屈能力を評価した.すると腹斜筋MMT,体幹側屈ROM-Tの結果から左右差が見られなかったため,左側方リーチのみ困難な要因とは考えられない.このことから立ち直り能力の有無を評価することにした.
 立ち直りの評価方法として,患者の両坐骨を検査者の手掌にて支持し,他動的に骨盤を挙上させ,頸部・体幹の立ち直りの有無をみた.結果,立ち直りは可能であり,立ち直りに必要な体幹機能は有していると考え,同時に中枢性の立ち直り反応もクリアであることが分かった.このことから骨盤の挙上能力に問題があると考えた.
 骨盤の挙上に必要な筋力として腰方形筋のMMTをみたところ左右差はなく,骨盤挙上に問題はないと考えた.そこで側方リーチにおいての骨盤を傾斜させる能力について調べた.
 池田ら1)は,骨盤の側方傾斜肢位の保持に,移動側中殿筋および大腿筋膜張筋の股関節内旋・外転作用と大殿筋上部線維の股関節外転作用が関与すると述べており,本症例は移動側である左中殿筋・大腿筋膜張筋の筋力が健側よりも低下しており,このため骨盤傾斜保持が困難なことによって頸部・体幹が立ち直ることができず側方リーチ動作が困難となったと考える.  以上のことから中殿筋と大腿筋膜張筋にアプローチを行った.

結果

左中殿筋・大腿筋膜張筋のMMTは向上し座位,膝立ち位,立位全ての肢位において左側方リーチが可能となり,左片脚立位も可能となった.問題となっていた歩行動作の左立脚中期のTrendelenburg様歩行も改善された.

考察

座位側方リーチでの骨盤傾斜保持に必要な筋肉が歩行時の立脚中期における骨盤水平保持と同一であったことから歩行の改善に至ったと考える.
今回の症例において,THA施行後であることから股関節周囲に焦点を当て評価し,治療を行った方が簡潔的にリハビリテーションを行えたかもしれない.事実Trendelenburg様歩行の原因は代表的な中殿筋と大腿筋膜張筋の機能障害であったが, その他に考えられる要因を取り除く根拠にはならない.Trendelenburg様歩行を呈するのは股関節疾患を有する方だけではないことを念頭に,今回の評価方法は様々な疾患に応用できると考える.

文献

1)池田 幸司・他:端座位での側方体重移動時における移動側中殿筋・大腿筋膜張筋・大殿筋上部線維の筋電図積分値.理学療法科学.29(3),2014,421-424.

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