卒業研究発表

足関節背屈可動域制限の要因の再考

― 腓骨外果後上方拳上に着目して ―

2016年度 【理学療法士学科 夜間部】 口述演題

はじめに

今回,登山中段差降段に失敗し,左足関節三果骨折を受傷され観血的骨接合術(ORIF)を施行された患者を担当した.本症例は約3週間ギプス固定完全免荷期間を経て,さらに約4週間,部分荷重での生活をされていた.その影響により左足関節背屈可動域制限(以下ROM制限)が生じた.筋・皮膚―皮下組織への治療を行ったが,著名な改善は得られなかった.そこでROM制限の要因には他にどのようなものがあるのか調べることとした.

症例紹介

症例は40歳代女性,診断名は左足関節三果骨折(PER-Ⅳ型).本人Hopeは「早期職場復帰」であった.術後経過として20XX.07.14にORIF施行し,20XX .07.28ギプス固定からシャーレ固定となる.20XX.08.05シャーレ固定脱となりエバーステップ固定にて部分荷重開始となる.20XX .08.25全荷重可能となっている.

評価と治療

初期評価では関節可動域テスト(以下ROM-t)においては表1のとおりであり,主に左足関節背屈ROM 制限にて下腿後面に伸張痛を訴えられていた.
さらに触診により下腿三頭筋・長短腓骨筋・後脛骨筋・長母趾屈筋の伸張性低下が認められた.上記の問題点から術創部の皮膚―皮下組織(内果・外果周辺)と距腿関節・距骨下関節へのモビライゼーションと,伸張性低下が生じていた左足関節周囲の筋に対してストレッチを行った.

結果

最終評価ではROM-tにおいて表1のとおり左足関節背屈可動域が5°の改善が認められ,下腿後面の伸張痛の訴えは消失していた.しかし左足関節前面のつまり感の訴えが生じていた.

考察

市橋ら1)によると,関節の不動によって生じたROM制限は,皮膚や筋といった関節構成体以外の軟部組織の変化がかなりの割合で関与していると報告している.また岡本ら2)によると不動によって起こる拘縮のROM制限は,1ヶ月程度の不動期間では皮膚・筋といった軟部組織の変化に由来するところが大きいと報告している.本症例は約1ヶ月程度の不動期間にもかかわらず,筋・皮膚―皮下組織への治療を行うも左足関節背屈可動域は約5°の改善しか得られなかった.上記の内容から筋・皮膚-皮下組織以外での問題点を再考した.藤井ら3)によると脛骨と腓骨の両骨を外旋させ,腓骨外果後上方へ変位させ,遠位脛腓関節モビライゼーションは背屈可動域制限の治療に効果的であると報告している.また上島ら4)は外果挙上しながら伸縮性テープで保持し荷重位での足関節背屈最大運動において,外果挙上誘導時に背屈角度が優位に増加したと報告している.これらの報告から内・外果間の距離の拡大が足関節背屈時の可動性拡大に繋がると考えた.

まとめ

本症例は足関節固定期間により左足関節背屈ROM制限が生じ,実習期間中において筋・皮膚-皮下組織に着目し,治療を行ったが左足関節背屈ROM制限は5°程度の改善しか得られなかった.加えて前述した足関節外果後上方挙上を考慮することで,足関節背屈ROM制限の改善に繋がり,さらに今後の足関節症例に対する一手段になるのではないかと考える.

文献

1)市橋則明,武富由雄・他:膝関節可動域制限に関与する皮膚と筋の影響.理学療法学.18,1991,45-47.
2)岡本眞須美,沖田実・他:不動期間の延長に伴うラット足関節可動域の制限因子の変化.理学療法学.31,2004, 36-42.
3)藤井岬,宮本重範・他:足関節背屈可動域改善に遠位脛腓関節の後上方滑り運動は有効か?.第43回 日本理学療法学術大会セッションID580,2008.
4)上島正光,上倉将太:足関節外果挙上の誘導の作用.第42回 日本理学療法学術大会セッションID993,2007.

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