卒業研究発表

TKA術後早期における可動域改善の推移と阻害因子の検討

2016年度 【理学療法士学科 夜間部】 口述演題

はじめに

今回,右変形性膝関節症を呈し右人工膝関節全置換術(以下TKA)を施行した症例を担当した.本症例は術後疼痛の訴えが強くアプローチに難渋したが,日増しに膝関節の機能面は改善していった.上記のことから膝関節可動域の回復段階に着目し,どのような変化があったのかを検討した.

症例紹介

80歳台前半の女性で1度肥満の方である.術式はTKA-PStype.正中切開侵入法で半腱様筋,MCL一部切離.現病歴は20年前より右膝痛があり,疼痛増悪により当院入院された.

理学療法評価

初期評価では,血液データにてCRP値が術5日目で12.31と高値を示しており,術10日4.08,術29日1.47という経過を示した.視診と触診では膝周囲熱感,腫脹を認め,膝周囲筋の筋緊張亢進を認めた.疼痛評価では下肢全体に安静時,動作時共に疼痛の訴えが強かった.

結果

最終評価では,視診と触診で膝周囲熱感は減少しているものの残存しており,筋緊張亢進は改善を認めた.疼痛評価は屈曲最終域付近の膝前面皮膚の伸長痛のみであった.右膝関節可動域の獲得推移を図1.のようにグラフとした.

考察

術後10日でグラフの推移の仕方に変化を認めた.10日を境にⅠ期Ⅱ期とし,問題点を明確にした.
Ⅰ期では,術式により疼痛が生じ防御収縮が生じていたと考えられる.疼痛刺激により屈筋が興奮し,伸筋が抑制される.持続的に刺激が入力され屈筋の筋緊張亢進と伸筋の抑制が起こり筋性防御による不動化を生む.このため新たな痛みを招き屈筋反射を亢進させる.また循環障害を起こし,痛みと筋の悪循環を生じる.これらがⅠ期での阻害因子である.
 Ⅱ期では,炎症による腫脹が阻害因子である.腫脹により皮膚の伸張性が低下し,屈曲最終域付近の膝前面皮膚の伸長痛が出現したと推察する.
 浅野1)や小西ら2)によると膝関節屈曲角度増大につき皮膚の伸張性が必要であるとし,腫脹は膝蓋上嚢や膝蓋下脂肪体などの癒着による滑走性低下を招き,膝関節包内運動を阻害し可動域制限を生じる.

結語

Ⅰ期では早期の炎症改善と疼痛緩和を目的とした治療が重要となる.また,Ⅰ期からⅡ期へと円滑に移行させるために早期からMuscle settingを行う.Ⅱ期では皮膚の伸張性改善や関節包内運動改善を目的とした治療選択が重要である.如何に時期に則した治療法を的確に選択するかが重要であり,Ⅰ期から2期へと円滑に移行させるかがTKAでの早期膝関節可動域獲得の要因のひとつとなると結論づける.

文献

1)浅野昭裕:一般的な人工膝関節全置換術に対する運動療法.2008.
2)小西功人:関節屈曲可動域制限を呈した一症例-皮膚伸張性・副運動に着目して-.理学療法いばらき.11,2008,134-138.

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