卒業研究発表

腰椎過前弯を呈する立位姿勢アライメントの体幹深層筋に着目して

― 腹式呼吸訓練を実施した症例 ―

2016年度 【理学療法士学科 夜間部】 口述演題

はじめに

今回,左大腿骨頸部骨折を受傷した症例を担当する機会を得た.腰椎過前弯での立位姿勢が観察され,この姿勢アライメントが体幹深層筋,股関節周囲筋の筋活動に関与しているのではないかと考えた.治療で腹式呼吸訓練を実施した結果,体幹深層筋,股関節周囲筋の筋出力に改善がみられたのでここに報告する.

症例紹介

70歳代女性,診断名左大腿骨頸部骨折.現病歴は,椅子から起立時に転倒された.入院前ADLは全て自立.料理の下ごしらえ担当で,1時間ほど立っていると腰に痛みが出現し、歩行時に体がふらふらしていたという訴えがあった.既往歴に膵臓癌(ope済),胸椎圧迫骨折がある.

治療と評価

初期評価の立位姿勢観察では,腰椎が過前弯し骨盤が前傾位であり,触診では両脊柱起立筋,左多裂筋,左大腿筋膜張筋の過緊張と腹直筋,左右内外腹斜筋,左右大殿筋,左中臀筋の低緊張を認めた.徒手筋力検査(以下MMT)では,左股関節屈曲4,左股関節伸展4,股関節外転右4左3,体幹屈曲4,伸展2,回旋左右4であり,座位体幹立ち直り検査では, 左へ体幹を側方移動した際に,体幹と骨盤の左回旋を認めた.
治療では,立位姿勢の改善を目的として,体幹深層筋の収縮を促す為,腹式呼吸訓練を実施した.治療方法は,背臥位で口腔を閉鎖し最大吸気から最大呼吸努力をする.最大呼気では,3~5秒保持し1日5回を2set,週6回4週間実施した.宮川らによると,呼吸筋の筋力増強は,高張力・低頻度の刺激が良く、上記の方法で1日数回,週5回5週間行うと呼吸筋力が強化できることが報告されている¹⁾.

結果

立位姿勢観察では,腰椎の過前弯と骨盤の前傾が中間位となり,触診では背筋群の過緊張と腹筋群の筋緊張に改善を認めた.またMMTでは股関節屈曲,伸展,外転筋,体幹屈曲,伸展,回旋筋の筋出力が向上し,座位体幹立ち直り検査でも,左へ体幹を側方移動させた際にみられた体幹と骨盤の回旋が改善された.

考察

Hodgesらによると,慢性腰痛患者は健常者に比較すると腹横筋の活動が遅延していたことが報告されている²⁾.治療で腹式呼吸訓練を実施した事により,努力呼吸筋である腹横筋,内腹斜筋,外腹斜筋の筋出力が向上したと考える.また腹筋群の筋緊張が高くなり,背筋群の過緊張が低下したことで,立位姿勢観察での腰椎過前弯と骨盤の前傾が改善し,中間位で保持できるようになったと考える.先行研究では、中臀筋は股関節中間位で筋活動が高くなり,大殿筋は腹筋群の収縮により筋活動が向上することが報告されている³⁾.

まとめ

今回、腹式呼吸訓練にて体幹深層筋を中心に治療した結果,立位姿勢アライメントが改善し,最終では腹筋群と背筋群の筋緊張に変化がみられた.また立位姿勢アライメントの改善により股関節周囲筋の筋収縮も向上することが示唆された。

文献

1)宮川哲夫:呼吸筋トレーニング.理学療法学.15(2), 1998,208-216.
2)三浦雄一郎:体幹機能の研究と慢性腰痛の運動療法. 関西理学療法.1,2001,7-13.
3)世古俊明,隈元庸夫・他:股関節の肢位による大殿筋・中臀筋の筋活動.第48回日本理学療法学術大会 抄録集.40,Suppl2,2013.

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