卒業研究発表

東日本大震災と阪神淡路大震災におけるPTSDの比較・検討

― 高齢者編 ―

2016年度 【作業療法士学科 昼間部】 口述演題

はじめに

阪神・淡路大震災と東日本大震災では,PTSDの発症が多くみられた.その中でも,高齢者のほうが若年層に比べ,PTSDが発症しやすいが,若年層のPTSDのための支援に追われ,独居の高齢者ではPTSDの対応が遅れていることが先行文献により明らかとなった.また,阪神・淡路大震災では火事による災害が多かったが,東日本大震災では津波や原発による災害が多いなど,原因が異なってきた.そのため,阪神・淡路大震災と東日本大震災ではPTSDの症状に違いがあるのではと考えたため,それぞれの震災での高齢者によるPTSDについて比較・検討を行うため,先行文献による研究を行った.

対象および方法

対象は,1996年5月17日から2015年8月25日までの「阪神・淡路大震災PTSD」・「東日本大震災 PTSD」をCiNii,J-STAGE,J-GLOBAL,メディカルオンラインの4つのサイトで検索していった.CiNii34件,J-STAGE201件,J-GLOBAL107件,メディカルオンライン210件見つかり,その中から「PTSD 高齢者」でさらに絞っていった.阪神・淡路大震災10件,東日本大震災3件の文献から文章を引き出し,カテゴリ分類をつけ,カテゴリの整理を行うことで,それぞれの震災での傾向を算出した.

結果

結果としては,カテゴリ分類は表1のようになり,阪神・淡路大震災ではみられなかった社会的資源の項目が多くみられた.東日本大震では,地域包括支援による教室などの社会参加促進事業が展開された.住民の相互の交流の場の普及促進になり,『誰かと話したい,誰かに会いたい』『自分の支えにもなった』という意識がみられた.症状としては,違いは少なかったが,東日本大震災では避難時期からPTSD発症についての記載が多くみられた.

考察

結果から,東日本大震災では阪神・淡路大震災の反省を生かし,社会的資源について書かれた文献が多くみられたが,PTSDの発症が増加し続けているのは,仮設住宅にいるという帰る見通しの立たない状態と,原発という現在も続いている災害による不安が原因であると考えられる.それにより,独居高齢者の孤独感が誘因されているとも考えられる.

まとめ

今後,震災が起こった際に,不眠・不安といった症状の発症が考えられる.PTSDの発症は,個人の性格や人生暦が関わっているが,今回のような仮設住宅という孤独感の強まる環境による発症例もある.そのために,仮説住宅ができ始める応急修復期(文献2)から作業療法士も不安を話し合える場を作る支援を,地域の事業と連携して行っていき,集団で作業を行いながら孤独感や不安を軽減していく必要があると考えられる.

文献

1)日下菜穂子,中村義行・他:災害後の心理的変化と対処方法-阪神・淡路大震災6ヶ月後の調査-.教育心理学研究45(1), 1997,51-61.
2)東日本大震災リハビリテーション支援関連10団体「大規模災害対応マニュアル」作成ワーキンググループ:大規模災害対応マニュアルリハビリテーション対応マニュアル.医歯薬出版株式会社,2012.

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