卒業研究発表

車椅子座位姿勢が及ぼす作業効率の違い

2016年度 【作業療法士学科 昼間部】 口述演題

はじめに

実習先の病院や介護老人福祉施設などでは,車椅子上での不良姿勢が長時間続き,食事もその姿勢で行う事で食べこぼしなどがみられた.また永田ら¹⁾ は不自然な車椅子座位姿勢で長時間過ごしていると述べている.そこで不良姿勢を正す事で,食事など机上で行う作業効率が向上し食べこぼし等を減少でき,介護負担の軽減に繋がるのではないかと考えた.本研究では,理想の車椅子座位とされる坐骨座りと高齢者に多くみられる仙骨座りでは机上での作業効率にどのような違いがみられるのかを明らかにする.

対象および方法

18~24歳の健常者男女30名を対象とし,不良姿勢とされる仙骨座り(以下,仙骨群),理想的な姿勢とされる坐骨座り(以下,坐骨群)の2種類に設定し実験を行った.被験者は坐骨群・仙骨群共に男性7名,女性8名の計15名を選出した.それぞれ写真を提示して同一の姿勢をとるように口頭にて指示した.座面40×40の車椅子を使用し,机の高さは床から70㎝で統一し,床に足底接地するよう被験者に口頭にて指示した.実験は利き手のみ簡易上肢機能検査(以下,STEF)を10項目実施した.検査終了後アンケートを行い,分析方法は対応のないマンホイットニーのU検定で行った.倫理的配慮として研究の目的・方法を口頭及び文章で説明を行い,同意が得られた者のみ対象とした.

結果

STEFを10種類実施した中で,大球と中球以外の全ての項目に有意差が見られた.特に,大直方・木円板・小球では0.01以下の有意差が見られた.

考察

安田ら2⁾高齢者における座位前方リーチテストの有用性の検討では,座位リーチと座位保持能力との間には有意差が見られたと述べている.本研究でも,自由記述の仙骨群の感想からリーチ距離が長く上肢操作がしにくかったという意見があり,仙骨座りでは座位が不安定であり,上肢動作と関連があると考える.グラフ上の3項目に,より有意差が見られた原因として,大直方は物品が大きく,重いため仙骨座りではリーチ距離が長く,荷重点と力点の距離が遠くなり重さをより感じられたと考えた.木円板は,物品を近距離で移動させる為,仙骨座りでは座高が低くなるため,手関節掌屈が強まり把持動作がより困難になったと考えた.小球は,物品が小さく,転がりやすいため,指尖つまみでの把持動作が必要となる.加えて,仙骨座りにより座高が低くなっている事から,視覚情報が入りにくいためであると考えた.仙骨座りと座骨座りではSTEFの計測時間に有意差が見られた事から,車椅子座位姿勢では作業効率に違いがある事が分かった.今回の結果より不良姿勢を正すことで食事など机上での作業効率が向上し,食べこぼしの軽減,対象者の最大能力の発揮に繋がるのではないかと考えた.

まとめ

本研究の課題として,今回は車椅子,机の高さを統一して行ったため,被験者の身長や座高に合わせて机の高さや車椅子を調整する必要がある.作業療法士は,利用者が車椅子上で作業を行う際には利用者が常に良い姿勢を保てる様,ポジショニングを行う事や声かけが必要である.また他職種へも情報の共有を行うことが必要である.

文献

1) 永田昌美,辻下守弘・他:特別養護老人ホーム入所者における車いす座位の問題点に関する検討,甲南女子大学研究紀要,看護学・リハビリテーション学編,2009,99-100.
2)安田直史,菅沼一平・他:高齢者における座位前方リーチテストの有用性の検討,理学療法基礎系28,3-37.

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