卒業研究発表

音楽と精神的緊張の関係

― 立ち幅跳びを用いて ―

2016年度 【作業療法士学科 夜間部】 口述演題

背景

大森らの『運動中の身体に及ぼす音楽の影響』¹⁾の研究では,4000m走を音楽を聴きながら走った場合と音楽を聴かずに走った場合での,身体面への影響を実験し分析している.結果,音楽を聴きながら走ることによって,聞かずに走るよりもタイムが速くなることが明らかとなった.しかし,音楽での精神面への影響の比較はされていないことから精神面への効果を調べたいと考えた.このことから,私たちは無音の状態と落ち着く曲を用いて緊張の正の効果を研究することにした.音楽が運動中に精神面に,どのように影響を与えるかについて,客観化すべく本研究に取り組む.参考動作として「立ち幅跳び」を使用し,無音または落ち着いた曲を聴きながら運動を行う場合の跳躍距離の差に着目し,精神的緊張とパフォーマンス力の関係に対する音楽の影響について研究したいと考えた.仮説として無音状態と比べ落ち着いた曲を聴く方が,緊張が緩和され跳躍距離が伸びるという正の変化が見られると考える.

対象および方法

本校の作業療法士学科に在籍している男女39名(20~40歳代,平均24.7歳)を対象とし,実験を実施した.研究の目的・方法を口頭及び書面にて説明し同意を得た.次にアンケート(フェイススケール)で『今の気分』について6段階で選択してもらい,その後別室にて立ち幅跳びを実施.2回目のアンケートは先程の内容に加えて『先程跳んだ結果に満足しましたか』という質問を足したものを記入してもらう.再び教室を移動し,立ち幅跳びを実施.最後のアンケートではさらに『音楽ありと音楽なしではどちらが跳べたと思いますか』と感想の自由記入欄を設けて答えてもらう.その際,運動の慣れが出ないように音楽の有無は全体を半分に分けクロスオーバー法を用いる.これらの結果を二元配置分散分析と多重比較(Fisherの最小有意差法)を用いて検定にかけた.

結果

フェイススケールの結果として,音楽ありの状態で跳躍する方が落ち着いて跳べた方が58%,どちらも変わらないという方が26%,興奮したという方が16%という結果となった.
跳躍距離の結果として,音楽あり群と音楽なし群の平均はあり群が160.5cm,なし群が156.6cm.双方を検定にかけた結果,P値=0.265で有意差が認められなかった.

考察

大森らは4000M走を実験に用いて約20分前後,音楽を聴く環境を作っていた.しかし,私たちは立ち幅跳びを跳ぶ約5分間しか音楽を流していなかった.それに加えて,興奮や声援によって音楽をしっかりと聞けるような環境ではなかったことが大きく影響していると考える.このことから問題点を挙げると1,参考文献よりも圧倒的に音楽を聴く時間が短かったこと.2,私たち指示ができなかったため被験者が跳んだ際に盛り上がってしまい,無音・音楽を聴くという環境でなかったこと.3,初めて跳ぶ際にストレッチを行なわなかったことで,音楽のありなし関係なく,必然的に2回目の方が跳べるという結果になったことが挙げられる.これらの要因を改善するには1,実験する際には10分間聞く環境を作り,有意差が出なかった際にはさらに少しずつ時間を伸ばしていく.2,私語厳禁にし,音楽を聴くことに集中してもらう.3,1回目と2回目の差を少なくするために,初めにラジオ体操を行なうなどして全体で統一したストレッチを実施するということが必要ではないかと考えた.また精神的緊張とパフォーマンス力の関係で過緊張の状態には効果があるのではないかと考えるため,実施前に精神的緊張を亢進させるような動作や作業を行なってから実験に参加して頂くことも必要ではないかと考える.

まとめ

音楽が精神的緊張に対して正の変化を与えるということが明らかになれば,リハビリ時やレクリエーション時に緊張緩和の目的で使用できると考えた.

文献

1)大森芙美:運動中の身体に及ぼす音楽の影響.東京女子体育大学紀要20,1985,62-78.
2)飯村直子・楢木野裕美・他:Wong‐Bakerのフェイススケールにおける妥当性と信頼性.日本小児看護学会誌 11(2),2002,21-27.

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