卒業研究発表

日本作業療法士協会が推進している生活行為向上マネジメントの 地域・病院における普及率調査

2016年度 【作業療法士学科 夜間部】 口述演題

背景

生活行為向上マネジメント(以下MTDLP)とは,一般社団法人日本作業療法士協会が2008年に国民に分かりやすく地域包括ケアに貢献できる作業療法の形を示すために開発したものである¹⁾.日本作業療法士協会がMTDLPの普及啓発に取り組んでいるなか,その普及率や臨床現場で働く作業療法士(以下OT)がMTDLPについてどう考えているのかを示した研究は少ない.そこで,病院と地域別のMTDLPの普及率や臨床現場で働くOTがMTDLPについてどう考えているのかを明らかにするため,アンケート調査を実施した.MTDLPの現状や課題点,臨床現場で働くOTの考えを知り,今後のMTDLPの普及啓発のためのヒントとしたいと考える.

対象および方法

国内の臨床現場で働く経験年数1~15年目(平均年数3.7年)のOT 239名を対象に,地域と病院に分けてアンケートを実施した.調査項目は,領域,対象疾患,MTDLPを使用しているか,使用と不使用の理由,使用効果,現在MTDLPを使用していないOTに対し今後使用したいか,などについて自由記入と選択方式を用いて回答を求めた.倫理的配慮として,研究目的,アンケート参加の任意性,個人情報の保護に関する説明同意書を同封し,研究趣旨への同意を求めた. 分析方法は単純集計を用いた.本研究は卒業研究倫理審査委員会の許可を得て実施した.(大医福 第15-教-18号)

結果

回答を得たOTは地域で60名,病院で180名(地域と病院で兼業しているOTを含む)であった.MTDLPを使用しているかの問いでは,地域では 18名(30%),病院ではOT 25名(14%)がMTDLPを使用していると回答した.対象疾患は脳血管疾患(42%),次いで認知症(21%)であった.MTDLPを使用している理由は「目標設定やプログラム立案が迅速に行える」(27%),使用していない理由は「時間がかかる」(55%)が最も多かった.MTDLPの使用効果は「目標が明確になり,対象者と目標を共有することができた」「対象者の自発性・意欲向上につながった」などが挙げられた.現在MTDLPを使用していないOTに対し,今後MTDLPを使用したいかの問いでは,45%のOTが今後も使用したくないと回答した.その理由として,「時間がかかる」「他職種への理解が困難」などが挙げられた.

考察

アンケート結果から,MTDLPは病院より地域で普及率が高い結果となった.その理由として病院と住まいでの生活環境の差異²⁾,地域では生活行為向上リハビリテーション実施加算があることが考えられる.全体でのMTDLPの使用率が低い理由として「時間がかかる」「他職種への理解が困難」などが挙げられた.MTDLPの使用にあたる時間短縮のためには,使用頻度を増やし,シートの扱いに慣れることでOTのスキルを向上させることが必要であると考えられる.また,MTDLPは対象者を知るためだけでなく,目標を共有できるツールとしてチームアプローチに寄与できるため,他職種参加型の研修や勉強会を行うことでMTDLPの使用方法と他職種への理解が得られるのではないかと考える.そして,MTDLPを使用することで,目的志向型訓練が実施でき,24時間365日の生活が「意味のある作業」につながると期待できる.

まとめ

研究結果から,MTDLPは病院より地域での使用率が高い結果となったが,全体でのMTDLPの使用率は低いことが分かった.今後のさらなる普及率向上のためにはMTDLPの使用にあたる時間短縮と他職種への周知が必要であることが考えられる.

文献

1)一般社団法人 日本作業療法士協会 生活行為向上マネジメントパンフレット:2014.
2)中村元紀 宮武慎・他:急性期病院における「生活行為向上マネジメント」の活用 ~作業療法の「見える化」により,多職種連携が促進された一事例~.大阪作業療法ジャーナル.29(1),2015,9-13.

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