卒業研究発表

優秀演題

市民マラソン大会におけるメディカル・サポート報告

― 市民ランナーの外傷・障害特性について ―

2017年度 【理学療法士学科 夜間部】 優秀演題

背景

 我々はメディカル・トレーナー部に所属し,日頃より高等学校の部活動や市民マラソン大会においてメディカル・サポート活動を行っている.近年,一般市民参加型のマラソン大会が数多く開催されており,市民ランナー(以下,ランナー)の増加に伴いランニング障害(以下,障害)が増え続けている一方で、障害予防に関する競技現場レベルの予防医学的成果についての報告は少ない.そこで,市民マラソン大会における 外傷・障害特性と今後競技現場に関わる医療従事者の課題を明らかにすることを目的とし市民マラソン大会に介入した.その結果と活動内容について報告する.

対象および方法

 参加人数2245人の市民マラソン大会において,我々が運営するケアブースを訪れたランナー(平均年齢46歳±27)に調査協力を得てアンケートを実施した.内容は性別,年齢,練習の頻度・強度,ランニングにより生じた痛みの有無やその部位で,これらを聞き取りにて調査した.対象となったのは279件であり,その内訳は痛み有り:211件,痛みなし:37件,リラクセーション目的:68件であった.

結果

 調査対象となった279件のうち,膝の痛みが41件(約15%),下腿後面の痛みが36件(約14%)であった.次いで足底,大腿前面,大腿後面,腰となり,ランナーケアブースを利用するランナーは,下肢に何らかの痛みを有していることが多いという結果に至った.本研究では,膝と下腿後面の2部位の痛みで全体の約29%を占める結果となった.

考察

 障害とその因子について,年齢や性別,ランニングフォームや練習量などの個人因子の他に,気象や路面状況,大会のレベルが自己に見合っているかなど,様々な因子が絡み合い疼痛を誘発していると考えられる1).また,上甲ら2)によると,一般人は競技者と比較しランニングフォームに違いがあり,膝と下腿の負担が増加し障害が起こると報告しており,本研究においても同様の結果となった.ただし,その疼痛の原因となる障害は数多く存在し,特異的疾患を想定した考察は行えていない.そのため,今後の課題として特異的障害を鑑別する評価,疾患にあった対応,再発・二次障害予防ができる能力が必要であると考える.加えて,マラソン大会を多角的にサポートするにあたり,スポーツ障害のみならず外傷による応急処置や一次救命処置を行う必要があると予測される.今後,これらの能力を獲得することが我々の課題であると考える.

まとめ

 我々は,これまで30大会を超える市民マラソン大会の現場でメディカル・サポートを運営し,ランナーの障害特性を経験的に学んできた.そこには急性期内科症状,外傷から慢性障害まで多くの 疾患が存在したが,調査結果から下肢に限局した障害が有意に多いことが判明した.中でも膝関節(関節・筋)と下腿後面筋由来の障害が有意にみられ,膝関節症や腸脛靭帯炎・ジャンパー膝,アキレス腱周囲炎・アキレス腱付着部炎など特異的疾患との鑑別評価と,それらへの個別対応能力が必要となることが示唆された.

文献

1)尾﨑勝博・落合錠・他:腸脛靱帯炎の理学療法における臨床推論.理学療法.33(9),2016,794.
2)上甲大河,中尾聡志・他:市民ランナーは理学療法士に何を求めるか-ニーズに沿ったメディカルサポートの展開に向けて-.理学療法学supplement.40(2),2012.

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