卒業研究発表

人工股関節全置換術後の脚長差に着目した症例

― 脚長差の評価項目について ―

2017年度 【理学療法士学科 昼間部】 口述演題

はじめに

 今回,乾癬性関節炎を呈し右人工股関節全置換術(以下 THA)を施行し,脚長差が2.5cmある症例を担当した.足底板を挿入してアプローチを行ったが,脚長差の原因を特定することができなかった.そのために必要な評価項目を,文献を基に再検討したため報告する.

症例紹介

 50代女性.約2年前から股関節痛が増悪.乾癬性関節炎と診断され,本年6月に右THAを施行した.術前ADLは自立しており,移動には松葉杖を使用していた.毎日自転車で40分かけて買い物に行っていた.退院時,0.8cmの足底板を挿入しT字杖で歩行,階段昇降・自転車は可能となり,術後27日で退院した.

評価と治療

 術後4日目から初期評価,術後19日目から最終評価を行った.初期評価時のROMは右股関節伸展-5°,外転20°,内転10°であった.MMTは右股関節外転2,内転3であった.歩行は右Mstに骨盤は前傾・左下制し左下肢の墜落性跛行が生じ,右Mst~Tstに股関節伸展が不足しており,骨盤の右回旋が生じた.右股関節・骨盤の可動域練習,筋力増強訓練,足底板0.8cmを挿入しての歩行練習を中心に行い,加えて自宅でのADL動作の指導を行った.

結果

 右股関節の可動域,筋力の改善が認められた.歩行では右Mstに体幹の左側屈と骨盤の前傾が軽減し,骨盤の左下制は消失し,墜落性跛行が軽減した.右Mst~Tstにかけて骨盤の股関節の伸展が軽度増大し,骨盤の右回旋が減少した.また,10m歩行の最大歩行速度では足底板なしで9.25秒/16.5歩が,足底板0.8cm挿入で7.03秒/16歩と歩行速度も大きくなった.しかし,脚長差についてはSMD,TMD,臍果長を測定したが脚長差の原因を特定することができなかった.

考察

 脚長差の原因には,骨自体の長さや骨盤の問題などがあるが,中野渡ら1)によると,機能的脚長差は股関節外転・内転の可動域制限や腰椎側方可動性によって生じる骨盤の側方傾斜と関連することが報告されている.よって,機能的脚長差を確かめるために骨盤側方傾斜の評価が必要であると考える.骨盤の側方傾斜角度の評価には,X線において両側の涙痕を結ぶ線と水平線とのなす角度を用いて測定する.本症例は右に3°側方傾斜していた.また,骨盤前後傾に対する評価として,森本ら2)はX線において両側仙腸関節下縁を結ぶ線Cに平行な骨盤腔最大横径をa,Cに恥骨結合上縁から下ろした垂線をbとして計測し,a分のbを骨盤傾斜指数として評価した.つまり,骨盤傾斜指数が大きければ,骨盤は前傾していることになる.骨盤傾斜指数は加齢性に後傾化していくが,中高年群は術前平均0.683で前傾群,後期高齢者群では術前平均0.407で後傾群としている.前期高齢者群は0.231~0.757と多様である.本症例では,術前が0.382,術後が0.375,術後7日目が0.363,術後21日目が0.424となっており中高年群の平均より後傾位になっていると考えられる.このことから骨盤は後傾位で右に側方傾斜していることが分かった.以上のことから本症例は股関節外転20°,内転10°の可動域制限があり,骨盤が右に側方傾斜し後傾位になっていることで骨盤の捻れが生じていることが脚長差の原因になっていると考える.

まとめ

 今回,乾癬性関節炎により2.5cmの脚長差を生じた症例に対して足底板を挿入してアプローチを行ったが,脚長差の原因を特定することができなかったため様々な脚長差に対する評価を調べ考察した.脚長差の原因追及には骨の長さや股関節内外転の可動域,骨盤前後傾の傾斜指数や側方傾斜角度を評価する必要性がある.

文献

1)中野渡達哉,鈴鴨よしみ・他:人工股関節置換術後の機能 的脚長差が健康関連QOLに及ぼす影響―パス解析を用い た障害構造モデルの検討―.理学療法学43(1),2016,30-37.
2)森本忠嗣,會田勝広・他:Hip-Spine Syndrome-人工股   関節置換術施工例における腰痛の検討-.整形外科と災害外科.52(2),356-360,2003.

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