「聞く、話す、食べる」といった人間の活動に関するリハビリテーション（以下リハビリ）の専門家、言語聴覚士。

言語聴覚士は現場で主にSTと呼ばれますが、このSTというのは「Speech Language Hearing Therapist」の略です。この言語聴覚士はリハビリの専門家ですが、リハビリには大きく分けて2つの種類があることをご存じでしょうか。

1つは医療リハビリ、そしてもう1つは介護リハビリです。両者は言葉のニュアンスこそ似ていますが、実は似て非なるものです。それでは何が違うのか？

言語聴覚士を目指す方や言語聴覚士に関心を持っている方が知っておくべき知識として医療リハビリと介護リハビリの違いについて解説します。

最大の違いは、「治療」と「生活の改善」

利用者にとって、医療リハビリと介護リハビリの大きな違いはリハビリを受ける場所です。医療リハビリは治療を目的としたものなので、病院など医療施設で受けるのが基本です。入院している場合もありますし、通院の場合もあります。

そして介護リハビリは介護施設や自宅などで受けるのが一般的です。介護施設にて行われている介護リハビリのことは「通所リハビリ」、自宅で受けることは「訪問リハビリ」といいます。特に通所リハビリはよく使われている言葉なので、言語聴覚士に関心をお持ちの方であれば聞いたことがあるかもしれません。

医療リハビリと介護リハビリには、目的にも違いがあります。医療リハビリはケガや病気などで一度は失った身体の機能を回復することを目的としているのに対して、介護リハビリは治療ではなくその人らしく生活できるように支援をすることが目的です。

「治すこと」を目指すのか、「より良く生きること」を目指すのか。この両者には大きな違いがあることがお分かりいただけると思います。

お金の取り扱いにも大きな違い

もう1つの大きな違いに、お金の取り扱いがあります。医療リハビリは医療という名前の通り、医療保険（健康保険）が適用されます。高齢でなくても一般的に医療機関を利用すると「3割負担」になることは多くの方がご存じだと思いますが、医療リハビリも同様です。

それに対して介護リハビリは介護保険が適用されます。健康保険は全国民が対象ですが、介護保険は原則として65歳以上の方が対象です。40歳から64歳まででも介護保険を適用できるケースがありますが、それは特定の病気がある方です。

介護保険が適用される方にとっては医療リハビリと介護リハビリに金銭面でも違いはあまりないのですが、介護保険は所得によって料金の負担率が変動します。

言語聴覚士が関与するのは医療リハビリ

それでは、言語聴覚士にとっての両者の違いはどうでしょうか。これも重要な違いなので、詳しく解説します。

結論から述べると、言語聴覚士が活躍しているのが医療リハビリです。先述のように医療リハビリはケガや病気などによって身体の機能が失われてしまった方に対してその機能回復を支援します。治療や機能回復を目的としているので専門的な知識が必要になり、リハビリには多くの医療専門職が関与します。

医師や看護師はもちろんのこと、そこに言語聴覚士、理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職も加わります。言語聴覚士は「聞く、話す、食べる」の機能に関する専門職なので、医療リハビリの中でもこの3つに関わる支援を担当します。

近年ではチーム医療といって多くの医療専門職がそれぞれの持ち場を担当し、チームで患者様の治療にあたる仕組みが一般化しています。言語聴覚士として病院などに勤務をした場合、チーム医療の一員となって医療リハビリにあたることになるでしょう。

それに対して介護リハビリは、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士といったリハビリの専門家が関与することはなく、介護士やケアマネージャー、機能訓練指導員など介護の専門家が担当します。

医療リハビリは言語聴覚士のやりがいも大きい

医療リハビリと介護リハビリの違いについて、言語聴覚士に関心をお持ちの方の目線で解説してきました。言語聴覚士となったら医療リハビリのスタッフとなることがお分かりいただけたと思います。

あくまでも治療を目的としているので明確なゴールが設定されており、それに向かって患者様と他の医療スタッフなどが連携することになります。患者様とチームが一丸となってひとつのゴールを目指し、そこで機能回復などの成果を実感できることは大きな喜びにつながります。患者様自身はもちろんですが、そのゴールに向かって支援をしてきた医療スタッフにとってもそれは同様です。

しかもその中でも「聞く、話す、食べる」という人間にとって極めて重要な活動に関わる機能回復に関与できるのは、言語聴覚士の大きなやりがいといえるでしょう。